水素吸入とALS（筋萎縮性側索硬化症）— その可能性、研究の進展、治療への応用

はじめに

近年、水素吸入療法は健康や美容だけでなく、神経変性疾患への応用が期待されています。特に、抗酸化作用や抗炎症作用が報告されていることから、ALS（筋萎縮性側索硬化症）に対する有望な補助療法として注目されています。2024年6月には、東邦大学医療センター大森病院において、FUS遺伝子変異を持つALS患者を対象とした核酸医薬の治験（FUSION試験）が開始されるなど、臨床研究も進められています。本記事では、水素吸入とALSの関係性について、そのメカニズム、研究状況、期待されるメリットやリスク、治療の考慮点を詳しく解説します。

水素吸入とは？

水素吸入療法は、水素ガスを酸素とともに吸入する方法で、体内の活性酸素を除去し、細胞の酸化ストレスを軽減することが期待されています。特に、最も毒性の強いヒドロキシラジカルを選択的に除去することで、神経細胞の保護や炎症の抑制に寄与すると考えられています。

この治療法は2016年に厚生労働省により「心停止後症候群」の治療として承認されましたが、その他の疾患への適用については研究段階にあります。

ALS（筋萎縮性側索硬化症）とは？

ALSは、脳や脊髄の運動神経細胞が変性し、死滅する進行性の神経変性疾患です。運動神経が障害されることで、筋力低下や麻痺が進行し、最終的には呼吸不全に至ります。

現在、ALSの発症原因は完全には解明されておらず、遺伝的要因や環境要因が複雑に関与していると考えられています。完治させる治療法は存在せず、対症療法が中心です。

水素吸入がALSの進行に与える影響

水素吸入がALSの進行を遅らせる可能性については、以下のメカニズムが考えられています。

酸化ストレスの軽減: 水素は神経細胞の損傷を引き起こす酸化ストレスを抑制し、細胞死を減少させる可能性があります。
抗炎症作用: ALSでは炎症が進行に関与していると考えられており、水素吸入による抗炎症効果が神経細胞の保護につながる可能性があります。
ミトコンドリア機能の改善: ALS患者の細胞ではミトコンドリア機能が低下しており、水素吸入がエネルギー代謝をサポートする可能性があります。

現在、東邦大学医療センター大森病院のFUSION試験をはじめ、海外の研究機関でも水素吸入がALSに与える影響についての臨床試験が進められています。これらの研究結果により、水素吸入の有効性が明らかになることが期待されています。

水素吸入の位置付けと研究の課題

ALS治療には現在、リルゾールやエダラボンといった薬剤療法、理学療法、リハビリテーションなどが行われています。それらと比較すると、水素吸入は補助療法として位置付けられ、特に酸化ストレスや炎症の軽減を目的として期待されています。

しかし、

臨床試験の規模が限られている
長期的な安全性と有効性が未確立である
ALS患者における最適な水素吸入プロトコルが確立されていない

といった課題も指摘されています。

水素吸入のメリットとリスク

メリット

酸化ストレスの軽減: 神経細胞の損傷を抑制。
抗炎症作用: 炎症を抑え、病気の進行を遅らせる可能性。
血流改善: 血管を拡張し、神経細胞への酸素供給を向上。
安全性が高い: 重篤な副作用の報告は少ない。

リスク

科学的根拠が十分でない: まだ確立された治療法ではない。
短期間での効果が不明: 継続的な使用が必要かどうか不明確。
費用がかかる: 自由診療であり、経済的負担が発生。

水素吸入療法を検討する際のポイント

医師と相談する: ALS専門医と相談し、適切な治療計画を立てる。
信頼できる医療機関を選ぶ: 認可された水素吸入器を使用する医療機関を選択。
費用面を考慮する: 自由診療のため、継続的な治療の経済的負担を検討する。
他の治療法と併用する: 既存の治療と組み合わせることで相乗効果が期待できる可能性がある。

まとめ

今後の研究では、水素吸入がALSの進行を抑制する明確なエビデンスを示すことが求められます。特に、

長期的な臨床試験の実施による安全性と有効性の確立
ALS患者ごとの最適な水素吸入プロトコルの確立
他の治療法との相乗効果の検証

が重要な課題となります。

水素吸入療法は、ALSの進行を抑える可能性を秘めた治療法ですが、現時点では補助療法の一つとして位置付けられています。ALS患者が水素吸入を試みる際には、信頼できる医療機関を選び、医師と相談しながら慎重に判断することが重要です。

今後の研究により、水素吸入療法の有効性や安全性がより明確になり、ALSだけでなく、他の神経変性疾患にも応用される可能性が期待されます。