水素吸入とは
水素吸入療法は、水素ガスを吸入することで体内の活性酸素を除去し、さまざまな疾患の治療や予防を目的とした療法です。水素には抗酸化作用、抗炎症作用、細胞保護作用があることが明らかになっており、近年、医療分野での活用が期待されています。
水素吸入には、ガス、液体、錠剤などの形態があり、それぞれに利点と欠点があります。例えば、ガス吸入は水素を直接体内に取り込むことができ、即効性が高いとされています。一方、液体の水素水は手軽に摂取でき、日常生活に取り入れやすい利点がありますが、体内での水素の保持時間が短いとされています。錠剤タイプは持ち運びに便利で摂取しやすいものの、吸収効率が異なる可能性があり、製品によって効果に差が出ることもあります。また、水素吸入は美容やスポーツ分野でも注目されており、疲労回復やパフォーマンス向上を目的として使用する人も増えています。
さらに、動物実験や基礎研究において、水素吸入が神経細胞の保護や炎症の抑制に寄与する可能性が示されています。これにより、脳卒中やパーキンソン病、アルツハイマー病といった神経変性疾患への応用も検討されています。
水素吸入の保険適用状況
日本では、水素吸入療法は原則として保険適用外であり、多くの医療機関では自由診療として提供されています。そのため、費用は全額自己負担となります。
しかし、2016年12月1日に厚生労働省は、「院外心停止後患者に対する水素ガス吸入療法」を先進医療Bとして承認しました。先進医療とは、将来的に保険適用される可能性のある新しい医療技術のことです。
この承認により、特定の条件下で水素吸入療法を受ける場合、医療費の一部が公的医療保険から給付されるようになりました。具体的には、院外で心停止を起こし、心拍が再開したものの昏睡状態が続く患者が対象となります。集中治療室において、18時間、2%の水素を添加した酸素を人工呼吸器下で吸入します。この治療にかかる医療費のうち、先進医療に該当する部分は患者の自己負担となり、一般的な健康保険適用部分については通常の診療報酬制度が適用されます。そのため、実際の負担額は医療機関や個々のケースによって異なりますが、一部の患者は数十万円の負担が必要とされることがあります。
この承認に先立ち、慶應義塾大学病院では、心停止蘇生後症例を対象としたパイロット研究が行われ、良好な結果が得られました。さらに、東京月島クリニックでは、がん治療の一環として水素吸入療法が提供されています。
ただし、先進医療としての承認は2022年5月31日で終了しており、現在は診療報酬に組み込まれる可能性は消滅しています。今後の保険適用には、新たな臨床試験や研究の進展が必要です。
海外では、中国の一部地域では水素吸入が保険適用されており、臨床試験の結果次第で他国でも採用が進む可能性があります。
水素吸入療法の費用
水素吸入療法の費用は、医療機関や治療内容によって異なります。自由診療の場合、1回あたり数千円から数万円かかることが一般的です。
先進医療として認められていた際のデータでは、平均入院期間が35.1日で、先進医療費用の平均額は約70万円でした。
また、税法上、水素吸入器の購入やレンタルは、予防および健康増進に該当し、治療とは認められないため、医療費控除の対象にはなりません。一方、アメリカでは一部の州において、医師の処方がある場合に限り、水素療法に関連する医療機器が税控除の対象となる場合があります。また、ドイツでは、特定の医療機関で推奨された治療に限り、補助金制度が適用されるケースもあるため、各国の税制の違いを考慮することが重要です。
水素吸入療法の今後の展望
水素吸入療法は、がん治療に伴う放射線療法や抗がん剤の副作用軽減にも有効性が期待され、補助療法としての導入が進められています。
また、COVID-19流行時に早期終了した臨床試験では、水素吸入群で神経学的転帰が有意に良好であることが示されました。この試験では、被験者数は120名であり、水素吸入群と対照群に分けられました。試験結果によると、水素吸入群の75%がmRSスコアでより良好な回復を示し、重篤な副作用の発生率は対照群と同程度であることが確認されました。今後、さらなる研究が進むことで、より多くの疾患への適用が検討される可能性があります。
加えて、糖尿病や心血管疾患などの慢性疾患への影響についても研究が進められており、予防医療の観点からも期待されています。
特に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息、神経変性疾患(パーキンソン病やアルツハイマー病)、さらには糖尿病や心血管疾患に対する治療効果が示されれば、保険適用の対象として検討される可能性が高まります。専門家の意見によると、特に炎症や酸化ストレスが関与する疾患において、水素吸入の補助療法としての位置付けが今後の医療政策に影響を与えるかもしれません。
結論
水素吸入療法は、さまざまな疾患への効果が期待される新しい治療法ですが、日本ではまだ保険適用されるケースは限られています。水素吸入療法は自由診療として提供されている場合が多く、費用は全額自己負担となります。治療を受ける際には、信頼できる医療機関を選び、医師に相談し、費用や効果、副作用などを十分に理解しておくことが重要です。
今後の研究が進むことで、水素吸入療法の有効性と安全性がさらに確立されれば、保険適用される疾患や範囲が拡大する可能性があります。

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